太田祐 おおた・ゆう Yu Otaオーストラリア永住の野鳥ガイド・野鳥研究家。オーストラリアの野鳥観察に関し日本における草分け的存在で、TV番組や書籍、各SNS、機内誌などを通じ最大の情報発信者である。アジア人初の700Club(オーストラリア産鳥類リストが700種類以上ある人の名誉クラブ)に当時若干36歳で加入した。オーストラリア産鳥類リストは20台半ばでの移住者としては驚異的な現在740種。Birdlife AUSTRALIA(オーストラリア野鳥の会)が長年行なっているセスジムシクイ類調査の調査リーダーや運営委員を務めており、豪国内でも全国的な知名度を持っている。QPWS(クィーンズランド州政府 野生動物・国立公園管理局)に職務番号および現役の従業員ID番号も保有するほぼバイリンガル。オーストラリア永住権やバスツアー事業認可、国立公園や自然保護区の営利使用認可、救急処置資格、衛星携帯電話、海外添乗員資格(国交省)なども保有。オーストラリア有数の探鳥エリアであるアサートン高原にある4000坪の自宅兼民宿【ジョンストンベンドキャビン】及び【AAK ロッジ】で野鳥や動物を見つつ暮らしている。コロナ禍の混乱に乗じて開始した地方でのバス会社事業も急成長し、有名会計事務所から『ケアンズ随一のビジネス』と評された。
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» オーストラリア野生動物探訪旅行の記録 » アーバインバンク一泊二日旅行前編
昨年末のこと。 地図を眺めていたらどうしても静かな自然の中へ行きたくなり、一泊二日キャンプでアーバインバンクへ出かけてきた。アーバインバンクはケアンズから道路距離でおおざっぱに150kmほど西側の山中にある辺境の谷間の集落で、1880年頃から1920年頃にかけてジョン・モファットというスコットランドからの移民が鉱山開発で大成功し、一大帝国を築き上げたその本拠地である。 この写真は彼の実際の執務室であり、奥の写真がジョン・モファット。古い木の家、アンティークが好きな私には悶絶する空間である。
その前にアーバインバンクが辺境であることを伝えておく。知らないという事は怖いことで、過去には旅行会社ケアンズ支店の一行がコンパクトカーに乗ってあのバトルキャンプロードに突っ込んでいってスタックし、通りすがりの車に救助されたとも聞いた。日本人は、道路という物は舗装されており、川という物には橋が架かっており、携帯電話という物はどこでも使えるといった誤解をしている事が多い。もしそうなら、一台750万円するランドクルーザーがこんなにウジャウジャとオーストラリアを走っているわけがない。 振動で車のネジがゆるんでバラバラになる図を想像しつつ、アーバインバンクに着いた。まずは村の資料館でガラクタを鑑賞するぞ。この建物こそ一階がジョン・モファットのオフィス、二階が彼の住居だった物で現存するクィーンズランド州最古の一戸建てと言われている。1800年代のお宝がゴロゴロ展示してあるに違いない! うぉー凄い!! ジョン・モファットのデスク。ひぇー! ジョン・モファットの封印。きゃー! 封印と言えば映画「ビューティフル・マインド」でラッセルクロウが蝋燭で機密文書に封印をしているシーンを思い出さないか? ジョン・モファットのネコ! ではありません。古い建物にはネコがつきものだな。 私が1800年代から1900年前半くらいの古いオーストラリアのガラクタや建物を愛するのは、この乾きまくって痩せた厳しい大地を住処として逞しく一生を全うした人間達の臭いや開拓自体の雰囲気が感じられるからであって、それ以上に古い物、たとえばアボリジニの遺跡とかには没入感が得られずあまり興味が及ばない。 テーマパークにあるようなレプリカではなく、アーバインバンクのそれは本物である。この辺のレトロ感で、私は気を失ったに違いない。 意識を取り戻し、アーバインバンクの集落を散歩する。これはジョン・モファット帝国の中枢を担ったロウドン・精製所。現在は立ち入り禁止。 人間はどんな傾斜地でも諦めずに家を建てるものである。 アーバインバンクの集落にある建物の大半が文化財指定を受けているが、そのほとんどに普通に人が住んでいる。いきなり入っていくとトラブルになると思う。 これは暑いオーストラリア北部においては珍しいレンガ製の建物で銀行だったという。これも今は賃貸されていて誰かが住んでいるとは聞いていたが、よく写真を見てみると「ザ・オールドコーヒーバー&ラウンジ」という看板が出ている。しまった、行きそびれた。 (後編に続く)
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