太田祐 おおた・ゆう Yu Otaオーストラリアにおいて唯一の日本人専門野鳥ガイド・野鳥研究家。オーストラリアの野鳥観察に関し日本における草分け的存在で、TV番組や書籍、各SNSなどを通じ最大の情報発信者である。オーストラリア産鳥類リストは外国生まれとしては驚異的な現在739種。株式会社ワイバード(日本唯一のバードウォッチング専門の旅行会社)講師。アジア人初の700Club(オーストラリア産鳥類リストが700種類以上ある人の名誉クラブ)に当時若干36歳で加入する。Birdlife AUSTRALIA(オーストラリア野鳥の会)が長年行なっているセスジムシクイ類調査の調査リーダーや運営委員を務めており、豪国内でも広く知られている。豪永住権やバスツアー事業認可、国立公園や自然保護区の営利使用認可、救急処置資格、衛星携帯電話、海外添乗員資格なども保有。国内有数の探鳥エリアであるアサートン高原にある4000坪の自宅兼民宿【ジョンストンベンドキャビン】で野鳥や動物を見つつ暮らしている。2020年に有名会計事務所から『ケアンズ随一のビジネス』と評される。ジョンウインター博士が2009年から行ってきたキタフクロムササビ調査を継承。QPWS(クィーンズランド州政府 野生動物・国立公園管理局)に職務番号および現役の従業員ID番号も保有。
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山頂で見たヒメモリツバメ。 今日は一足先に飛行機でケアンズへ戻るO君をマウントアイザ空港へ連れて行く日。もちろん、その前に昨日見つけられなかったムナジロセスジムシクイを探して早朝岩場登りが全員に課せられた。高さ200mくらい、脆い小岩とスピニフェクスで覆われた丘だった。景色は凄いのだけど遠くを眺めたり広角レンズに付け替えたりする余裕が無い。相変わらずスピニフェクスがあちこちに刺さり、体重をかけた岩が崩れバランスを崩したり滑ったりでこの旅行(?)でみるみる靴とズボンが痛んでいく。特にスピニフェクスをどう防ぐべきか今後の対策に付いて活発に議論が行なわれた。
O君はすぐ遅れて見えなくなってしまうが、写真を撮ったり立ち止まったりしていると遠くからはぁはぁ追いついてきた。この過酷なバードウォッチングもあとちょっとだ、頑張ってくれ。空港へ向かう時間も迫ってきたので下り始めた時、何か下の方の斜面で動くものが。…あっセスジムシクイだ!何枚かシャッターを切ったが、残像にしか写っていなかった。環境や状況、残像映像から、ムナジロセスジムシクイだった可能性がとても高い。 willie 「どうします?」 chiemomoさん 「まぁ見たっちゃあ見たと言えなくもないが…」 その気持ちはよくわかる。カルカドンセスジムシクイが完璧に撮影できただけにムナジロセスジムシクイもしっかり撮りたい、と二人とも思っていた。ましてや、ムナジロの方は写真撮れませんでしたーなんて帰るわけにも。そしたらまた来ないといけなくなる。それはもうゴメンである。 車まであとちょっと、という薮を少し二人から離れて歩いていたらマルオセッカに出くわした。これもこの地域の準固有種的なものなのでよかった。 マウントアイザ空港へO君を送りに行く。「まだまだ高みがあると思い知らされました…」と言っていた。オーストラリアのバードウォッチングは過酷で変態だ、と思われたかもしれない。いや、絶対思ってるよな。ケアンズ周辺はレンタカーを借りて独自に鳥を探して頑張るそうだ。気をつけて。 いつもの二人になった我々は、何のためらいも無く別のムナジロセスジムシクイポイントへ直行。マウントアイザ有数の探鳥地、ムーダラ湖への分岐も目もくれず3度目の通過。セスジムシクイを片付けない事には先の展開はない。ここからはもう手加減なしだ、今更謝っても(?)もう遅いんだからな。 今度の場所は山や丘ではないけど岩がちの荒野とスピニフェクス。再び散開。オグロキノボリがいて、これも準固有種。だけど今はあまりお呼びでない。それにしてもトカゲが多い。その手の人を連れて来たいくらいだ。 飛ばないから撮り易いなぁ。 強烈な日光が足下の一面に広がる岩盤に蓄熱され、跳ね返って来る。気分は石焼ステーキそのもの。何時間か頑張っていたらセスジムシクイの幻聴が聞こえて奥地に彷徨い込んでちょっと焦った。日陰の全くない酷暑の中ずっと野山を歩いてさすがにおかしくなってきたようだが、なんとか目印にしていた岩まで戻ってきた。一カ所に暫くいると、どんなところでもヘソになる場所が出来る。その場所を中心に距離や方角を判断するような場所だ。と、そのヘソ岩の頂点に何か白いものが。…ムナジロセスジムシクイ!? 今度は幻覚?セスジムシクイは岩の上できょろきょろした後、ひょいっと岩の後ろへ飛び降りた。幻覚にしてはリアルすぎる。幻聴のときはよく考えればあり得ない不自然な部分が多々あった。いた、いた!と岩へ走って行き、飛び上がると眼下に一応、 ←とげとげスピニフェクスの間を高速で逃走するムナジロセスジムシクイ後ろ姿の図。 ようやく写ったよ。後ろ向きだけど。 chiemomoさんを呼んでみたけど何処にいるのか見当たらないし返事も聞こえない。暫く、ヘソ岩の近くで見張りを続けたんだけどもう出てこなかった。とことん嫌な鳥だ。仕方なく死の荒野を再びあてもなく歩き回って、収穫も無くとぼとぼヘソ岩まで戻ってきて座り込んだ。 暑い、手強い。「特に苦労無く出会う事が出来る」と読んだのだけど。暫く休まないと気を失う。それにしても日陰が全然ないのが辛いな、と炎天下座り込んでバナナチップを食べていると、右手奥から何か物音が? ほぼ丸二日、険しい岩山を歩き続けてついにムナジロセスジムシクイ撮影終了。よし、もう終わり! 随分離れた所にいたchiemomoさんを呼んできて、それから日没近くまで更に何時間かヘソ岩周辺で二人で探した。一度、飲み水を補給しに車を停めてある所まで一人で戻った。ついでに、火をおこして車の影で食事を作った。そこからふと見えた、猛烈な熱波の中でヘソ岩で依然としてひたすら粘るchiemomoさんの姿に戦慄した。ある水準を超えるとオーストラリアのバードウォッチングはやはり過酷で変態だ。しかしムナジロセスジムシクイはそれっきり二度と出てくることはなかった。 みんな、まだ生きているか?
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