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トレッキング記録2:ピラミッドマウンテン

ピラミッドマウンテン

ケアンズ南部のランドマーク、ピラミッドマウンテンに登ってきました。標高922m、裾野から山頂まで岩で出来ていて毎年8月中旬に早登り大会がある事でも有名。私の高度計によるとスタート地点の標高は25m。高低差900mの本気の山歩きとなります。高低差900mというと、270階建てマンションを階段で登り降りするのと同じようなもの。




(スタート地点はブルーズHWYをケアンズから南下し、ゴードンベイルの交差点を直進し、マルグレーブ川を超えた右手にある。駐車スペースは10台程)
ちょっと登ると、一面のサトウキビ畑が見下ろせる。虹が出てる。見慣れた景色がどんどん眼下に下がって行き楽しい登り始め。地図によると、平均的な往復タイムは5時間となっている。私は登山部だったので、平均タイムよりどの山もいままで早く戻ってくる。でも、おとなしく5時間かかったとして、それでも日没に間に合うように出発した。


登山道は一応あるんだけど、とんでもない悪路。この写真みたいに。目印がうってある程度、と思った方がいい。スタート直後からこんな上りで、日本なら鎖場、鉄バシゴだろうと言う所が次々に。すたすた歩けるような山歩きでは決してない。岩登り、と言った方がいいかもしれない。


7合目付近。正直、この辺りはかなりの難ルート。ピラミッドの山頂なんてなかなか見えない。なんか、昔苦しんだ北アルプスの常念岳近くの”日本三大急登”を思い出した。山頂が全然見えないのも燕岳に似てる。途中、スイス人のトレッカーに追いついた。かなり疲労していたようで、「今からだと日没までに下山できる自信がない。悔しいけど諦めて帰る」といっていた。そして、それが今回最初で最後に出会った登山者だった。


これがピラミッドマウンテン山頂からの眺め。正直ナメてた。これほどの急登&悪路だとは思わなかった。しかし、いい気分だ。下界のケアンズとは全く違う空気、緊張感、孤立感。私は自然の中で自分の存在が木の葉のように小さな存在に感じる事が好きなのだ。


山頂からの眺め、別の角度から。ジャンダルムみたいだ。(言い過ぎ?)後方に広がるのはウールーヌーラン国立公園の中核部。この大きな山にはてっぺんにいる自分以外、多分誰一人いないのだ。この山は今私だけのものだ。
満足していたのはここまで。
ここからは本当に恐ろしい体験をする事になる。天気予報は晴れだったけど
だんだん天気が悪くなって来ているのが写真を見ていてもわかる。山頂でゆっくりしすぎたこともあり日没の19時はまだまだ先なのに、急に山は暗くなって来た。まずい。急がないといけない。簡単な装備しか持って来ていない。


8合目付近。これがこの日撮った最後の写真。まだこの時は写真を撮るくらいの余裕があった。急いで下ったが16時頃には雨が降り始め、昼間とは思えない程に山の中は暗くなる。登山道は、所々の木や岩に印がうってある程度のもので暗くなってくるとわかりにくい。
そして、気がついた時には目印を見失っていた。
まずい。
道をはずれている。
雨がどんどん強くなる。日没までの時間はもうわずかしかない。
どうする?(といっても自分しかいないんだが)
とりあえず、基本に立ち返って目印がある所を探して30分程再び登ってみたが見当たらない。再び山頂まで登ればいいんだろうけど、その場合確実に夜になってしまう。懐中電灯は、簡単なやつしか持って来ていない。うーん。
時間だけは過ぎて行く。とりあえず近くの岩陰に潜り込み雨をしのぎながら考える。


明日の朝まで動かないのが一番安全だろう。しかし。高度計で見ると、残りの高度は350m程度だ。たったそれだけの為にビバークか…。下に人家の灯りも見えてるじゃん。ビバークはいやだな、ということになりリスク承知で下山を再開。もちろん登山道ではない所を強硬突破だ。何回か転んだ。足下も小さなライトではよく見えない。登って来たルートを更に急峻にしたようなもの凄い斜面だ。
このまま下界に戻れなかったらどうなるかなぁ。そういえば、誰一人(途中で出会ったスイス人以外)私が今日ピラミッドマウンテンにいる事すら知らないから多分発見されないだろうなぁ。とか考えながら斜面と格闘していた時。
バックパックに入れっぱなしで、その存在すら忘れていた携帯が鳴った。
げっ。
友人「どこにいるの?」
willie「いや…ちょっと遠い所に…」(ピラミッド山で遭難気味って伝えろよ!)
友人「これから夜釣りでサメを狙うんだけどどう?」
willie「えー面白そう!行くよ」(そんな状況じゃないだろ!)
友人「じゃさ、?まで来たら電話して」
willie「はぁーい」(アホか!)
友人「◯繧九%縺ョ△カ縺ッ縲… ぶちっ(電話が切れた)
なんだか瞬間的に電波が入ったみたいだ。やはり自力で戻らないといけなくなった。
真っ暗になった急斜面をなんとか下りきった所には、また凄いものが待ち構えていた。
これは…。
背丈2mはあろうかというススキのような植物の壁。北へ進めば出発地点に戻れるはずだ。私の高度計はコンパスも兼ねている。真っ暗で誰もいない、道でもない中をかき分けて進むときは一番恐かった、蛇が。行けども行けども永遠に続くかと思う程のすすき野壁の中を首や手に無数の切り傷を作りながら強硬突破すると、ふいに転がり出るような感じで農道へ出た。
ふぇー。
やれやれ、、助かった。
(その後、自分の車を探して更に彷徨った)
この話はかなり昔のもの。今まで、書こうとすると必ず気が重くなり自分の中で”the spell of pyramid(ピラミッドの呪縛)”と呼んでいた。ようやく形になってほっとしました。

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