Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

重傷、総合病院へ

その日は、午前中は変わった事もなく平凡に仕事をしていた。
お昼頃に、お客さんを迎えに行くために無人のミニバスを運転しケアンズを出発してしばらく走ったところで、急に座席のリクライニングが後ろへガコンと倒れた。腹筋の働きで自分も後ろへ倒れるような事はなかったが、その時に腰にビシッというしびれを感じた。が、特にそれ以上どうだごうだということもなく20分程運転し、車を降りようとしたときだ。
 神経が直接何かに触れたような、いままで感じた事がないような痛みが全身を走り、車から転げるように外に落ちた。
?????
油汗が出る。
激痛が走り、立ち上がる事もままならない。
なんだよ、これ…


(翌朝)
起きたら、痛みは取れていた、という展開を期待していたらとんでもなかった。その頃にはもう立ち上がる事も、寝返りを打つ事も出来なくなっていた。昨日は、なんとか歩く事は出来たのに。さすがに恐怖を感じる。どうなってしまうのだろう。
遅ればせながら、病院ヘ行く事にする。自宅の玄関までたどり着くのに10分くらいかかった。数段の階段を下りるのも必死だった。とにかく、腰に少しでも力や衝撃がかかると電気ショックが体を駆ける。
市内の24時間医療センターまで送ってもらう。ところが、全く歩けない程重傷の人に診療できるような設備がない、痛み止め程度しか出来ないということらしい。ケアンズで一番大きい「ケアンズベースホスピタル」の急患窓口を薦められる。
ベースホスピタル。ケアンズ唯一かつ最大の総合病院である。今まで幸いな事に、病院と言えば歯医者程度しか言った事がなく、あんな大きな病院へ行く事自体恐ろしかった。
多分生まれて初めて車いすに載せられ、結構待たされた。
新聞でよく、
病院のスタッフ不足が深刻
病院スタッフが過酷な勤務でストライキ
無免許の外国人医師が診療ー医師不足の深刻が背景か
英語がわからない医師が勤務
大けが人が屋外で数時間待ち
などの記事を頻繁に見かける。健康なときは「ふーん大変だねぇ」としか思わないけど…。
ようやく通された部屋で、何故か脈を測られた。その後、机の引き出しに放ってある使いかけの錠剤を出され、「痛み止めだから飲んでおいて」と言われる。おいおい、大丈夫か?それは?看護婦さん「先生が呼びに行くので、もう一度待っていて下さい。とても忙しいのです」
再び待合室に戻され、更に待つ。冷静に考えるが、来院者は全然多くない。30分に一人診療室に呼ばれるかどうかだ。本当に人手が足りないのだろう。
ようやく、ラッセルという先生が現れ診療室へ連れて行かれる。というか、私にはただの廊下に見える。廊下にベッドを並べたような所だ。そういえば、病院のベッドは数ヶ月待ち、という新聞記事も思い出した。まるで戦場だな。
先生に、いきさつを話して下さいと言われ、その後ベッドに上がるように言われた。頑張ったが、車いすからベッドへ移る事すら私には出来なかった。痛みのあまり悲鳴を上げて車椅子に座り込んでしまう。
先生はしばらく考え、3種類の錠剤を持って来た。さっき看護婦さんに変な錠剤も飲まされたんですけど、と言おうと思ったがそんな元気もなかった。更に、注射もされる。まさに薬漬けだ。説明がない所が怖い。そのまま先生はどこかヘ行ってしまった。
20分程しただろうか、4種類の錠剤と注射によって少し動けるようになった私はベッドに横たわっていた。問題は、筋肉の中のなんたらかんたらという組織炎症だと言う。神経に異常がないかの確認という事で、ゴムハンマーで膝をたたいたり、足の裏をくすぐったりというのもあった。そんなのでわかるのかなぁ。
そのあとの記憶が曖昧である。理由は言うまでもなく薬による麻酔で、強烈な眠気に教われる。立ち上がる事すら出来なかったのに、痛みが麻痺しているせいでぎこちなく歩く事も出来た。この人は一週間仕事は出来ません、という内容の手紙を先生が書いた。
処方箋をもって薬局ヘ行き指定の薬三種類を買って帰る。
(翌朝)
直っているかもと思ったけどそんなに甘くない。立ち上がるのも大変で、腰の角度によってはやはり激痛が走る。私は朝ご飯を食べられない人だけど、一刻も早く薬を飲むために今日は食べた。この薬は、あの電気ショックのような痛みを麻痺させてしまう大変強いものだ。当然、副作用がある。めまい、強い吐き気、食欲の消滅、頭は眠ったようになる。歩くのがつらいので、車輪付きの椅子を車椅子代わりにするため会社から運んで来てもらった。
 なんとか1日をやり過ごした。ほとんど何も食べず。
(翌朝)
薬はもう切れているはずだ。おそるおそる体を動かすが悲鳴を上げるような痛みはない(十分痛いんだが)。朝ご飯をちゃんと食べ、薬を飲む。説明書を良く読むと、3種類のうち2種類はIF REQUIRED(必要な時に)とあるではないか。副作用の吐き気がヒドいので、3種類のうちの一つだけにしてみた。それでもかなり気分が悪い。
 ちょうど、日本から古い大学時代の友人がハネムーンでケアンズに来ていた。夜、ふらふらしながら自宅に迎える。昔話にも花が咲いて副作用や痛みを忘れられた。ちなみに看護士と看護婦の夫婦。薬の事を聞くと、「痛みに伝わりには3つのルートがあって、多分それをすべてブロックする目的だよ。かなり強いやつよ」と。そうだろうねぇ。頭痛を抑えるのとレベルが違うもんねぇ。強い痛みを我慢するか、副作用を我慢するか…。とにかく安静にしている事が第一らしい。

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