Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

理由 宮部みゆき

『理由 宮部みゆき
を読んだ。作者名や裏表紙のあらすじから「推理小説」という先入観で読み始めたのが違和感の元だったと感じる。出だしは確かにそうだった。殺人。謎。ただ読み進めても全く話が進展しない。主人公、と呼べる人物が存在せずどんどん登場人物が増えていく。100人はいるだろうか。
 (事件はどうなったんだ!)と私はすこしいらいらしながらページをめくり続けた。そしてこの物語が推理小説ではなく「推理小説のモチーフを土台にした人間ドラマである」と理解する頃には600ページを過ぎていた。
 家族を捨てた人、捨てられて人、裏切られた人、信じた人。社会に適応できない人、老人ホーム、兄弟関係、プライド、妬み、嫁姑といった何十人もの登場人物の人生が、一読すると「何処にでもありそうなミステリー小説」の風袋を借りて展開された訳だ。なるほど…。と感心した。
 あともう一つ。この物語の中で悪役として描かれている人物が居る。私も素直に感情移入した、腹立たしいどうしようもない人間だ。しかしその人物の言葉、いや思想は驚くほど私(willie)と共通する部分があった。もちろん私は大罪など犯さないし、暴れたりもしない。金をせびったりもしない。全く違う人間だ。
 ただその人物が言う言葉。(これは私ではないか…)と何度か思わされた。自分の口からでても
おかしくないような言葉が次々と出てきた(まるで異なる所もたくさんあったが)。
恐ろしい事だ。


私という人間の中の、その部分だけにスポットをあてたら、これほど嫌な人間として描く事ができると感じたから。
 それから ー その登場人物と私は名前もよく似ている。
これを書き上げる筆力と構成力には脱帽。

Exit mobile version