Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

ホイグリンカモメ(仮)Twitch

ホイグリンカモメ(仮)

タイトルの「Twitch」とは、バードウォッチングの世界において本来分布しないような極めて珍しい野鳥がある国に迷い込んだ場合にそれを見に遠路を駆けつける狂った行動の事だ。

これはオーストラリア北海岸の町、ダーウィンに「謎の大きなカモメ」が飛来していると聞いた男の 「Twitch」の記録である。

「Twitch」には資金が必要だ。ケアンズからダーウィンまで直線距離でも1700km離れているので往復航空券が数万円、ケアンズ空港への往復タクシー代が数千円、ダーウィンでのタクシー代が数千円…。それは全て一種類の野鳥を見るためであり、羽を持つ鳥が私が駆けつけた時にもまだそこにいる保証は全然ない。でも今最も楽しいのは「Twitch」だから。


手荷物だけ持ってケアンズを夜のフライトで発ち、ダーウィン空港に夜遅く到着する。

この時間に外へ出ても鳥が見えるわけはないし、一人で何時間か寝るだけのためにホテルが割高で有名なダーウィンに宿を取るほどでもない。さすれば空港到着ロビーで夜明けを待つという選択が現実的。

もし預け荷物がある場合は到着ロビーを抜けてターンテーブルエリアまで移動せねばならないが、そうするともう到着ロビーにはセキュリティの都合で戻る事ができない。手荷物だけの場合は飛行機を降りたらその場所で居座るという技が使える。その方が外に出てしまうよりも夜を明かす上で遥かに安全なのはもとより…


多くの場合シャワーもひとつくらいあり、


電源も充実。これらは本来はフライトを待っている人の為ものだと思うが、飛行機を降りたばかりの私がそのままそこで夜明けまで過ごしても別に逮捕されないだろ?

そうして何時間か仮眠し、未明にシャワーを浴びてようやく空港の外へ出る。今回は「謎の大きなカモメ」が出ているのが比較的空港から近い為にレンタカーさえせず、タクシーで直行する。

外は雨だった。海岸でタクシーを降り、まだ真っ暗な海辺のトイレの庇の下で世が明けるのを腕を組んで待つ。持ち時間は約13時間ある。過去の「Twitch」全勝が物語る通り、鳥がまだそこにいるのならプロとして私は必ず見つける。さぁ始めるぞ。


…。

そのまま飲まず食わず数時間経過。

普通種のギンカモメがいるだけで何も特別なものは見当たらない。

ターゲットが見つからない時のTwitchは無慈悲なもので、いつも単独行の私には気を紛らわすものが少ない。このTwitchにかかった交通費の総額計算が哀れな人間を叩きのめす。手ぶらで1700kmを帰るのは絶対にゴメンだ。

そのうちに私以外にもTwitcher2人目、3人目が加わり、連絡先を交換して分担して探すが見つからない。彼らは自宅が比較的近場(400km)なので夕方が近づく頃に悪態をつきながら引き上げて行った。

空港で夜を明かし、早朝4時の捜索開始から14時間15分が経過したその時。日が沈もうとする18時14分09秒のその時。



はっ…(゚o゚;;?


なんだ!あの一羽だけデカイやつは!!!


「謎の大きなカモメ」キター!!・:*+.\(( °ω° ))/.:+


(中央茶色)この瞬間が私にとって生きていて最高の幸せ。


Twitch完了。

深夜フライト、空港ロビー宿泊から始まって14時間以上の飲まず食わず捜索、そして日没間際、フライト間際に目的達成。あとは1700kmを幸せに包まれて帰るだけだ。

(【補足】このカモメは現在でもオーストラリア国内において「ホイグリンカモメだ」「ニシセグロカモメだ」「キアシセグロカモメだ」となどの見解が錯綜し、結論をみていない)

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