Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

コキンチョウの新しい生息地の発見とユウ・オオタ川の誕生

絶滅危惧種コキンチョウ美しい飼い鳥として世界中で飼育されているコキンチョウは、オーストラリアの野鳥で開拓時代の輸出用乱獲で大ダメージを受け、その後の原野の牧地化、農地化でさらに大ダメージを受け、絶滅危惧種となっている。ノーザンテリトリー州ではまだ見られるものの、クィーンズランド州ではかなり珍しいものとなっていて、目撃報告を募る張り紙を各地で見ることができる。

ただし問題はコキンチョウが飼い鳥としては普通種であり各地で脱走した個体などが短期間生存していたり、繁殖させているコキンチョウを牧場やロッジが違法に放鳥していたり(しかも罪の意識がない)するので本当の野鳥としてのコキンチョウの報告をフィルターするのが難しい。特にマリーバ、マスグレーブ、ジョージタウンには有名な放鳥屋が存在。


今回はある調査チームが何ヶ月か前に100羽を超えるコキンチョウを発見したエリアの追加調査に呼ばれた。

初日はその辺りを全員で探して確かに数羽のコキンチョウを改めて確認した。なお私が普段しているこういったキャンプは、キャンプ地として整備されているところではなく、写真の通り「傾斜地、石ゴロゴロ、草ボウボウ」で普通のテントなど全く張る隙は無い。必然的に車の中か、車の上で寝るスタイルになる。




コキンチョウ以外にもカノコスズメやキンセイチョウ(写真)とか
オーストラリアでは珍しい大型のカマキリとか見ていたのだけど、まあすでにコキンチョウがいる事がわかっているエリアを改めて全員で探すよりは新しいエリアを探さないのか?と提案して私は晴れて単独行動する事になった(無線機と救難信号機は携帯)。


セスジムシクイ調査やTwitch旅行でも痛感する事だけど、私の場合ポイントだとか環境だとかを前もって知っていて探しに行くよりも、未知のフィールドに立ってぐるっと見渡して「あの辺に居そうだ」と感じる場所に進んで行く方が断然成績がいい。まあそうでなければ野鳥ガイドとして成り立たない。




涸れ沢を遡って行くとだんだんと美しいエリアに。二次林ではない原生林が残り、水もある。かすかにノドグロハチマキミツスイの声がした気がして口笛で鳴き真似していると…


「はぁ?なんだそりゃあ?」と一羽のコキンチョウが飛んで来た(笑)。

「コキンチョウ新たに発見!」の無線連絡で色めき立った調査員が次第にここに集合。今日はこの辺でキャンプして、明日は全員でこの涸れ沢を探すことになった。

翌朝、この涸れ沢で何羽かのコキンチョウが発見されて盛り上がる中、私は再び離脱してその支流へ…。


ほどなくして、ウロウロするつがいのコキンチョウを発見。これは繁殖もしているかもしれない!


ここから離れないもの、絶対繁殖してるよ。わずかに婚姻色も出てる。

これはケアンズから最も近くの野生のコキンチョウの新しい個体群になり、Facebook(限定公開)で非常に大きな反響が寄せられた。私はコキンチョウは毎月のように何処かで見ている気がするので麻痺しているが、改めてこの野鳥の珍しさと注目度の高さに驚かされた。そういえば昔、『野生のコキンチョウを個人で探しに日本から来て11日間費やしたが見られなかった、このホームページのコキンチョウが野生のものとはとても思えません』というような凄いコメントを叩きつけられたこともある(笑)。

この名前もついて居ないような小さな涸れ沢でのコキンチョウの連続発見により、この沢は「ユウ・オオタ川」と仲間内で呼ばれるようになっただけでなく、公式報告書にも「ユウ・オオタ川」として登場してる。しかしその影響の大きさを懸念し、公式報告書は現時点では関係者のみで非公開となっている。

現在でも「ユウ・オオタ川」での追加調査は続いており、巣立って間もないと思われる幼鳥に親鳥が給仕している姿を含め多くのコキンチョウが記録され続けている。そうなったらもう私が行かなくてもいいと思っているが、自分の名前が山河の名前となって永久に残る - これは悪い話では無い。

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