Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

ディンツリーへ

夜中。まだあたりは暗闇のなか車を北へ走らせた。
目的地はディンツリー国立公園周辺。もちろん初めてではないが、観光やドライブではなくてネイチャーウォッチングを目的に真剣に出かけるのは初めて。
朝四時にケアンズを出発。ほとんど誰もいないハイウェイを1時間北上し、モスマンあたりをすぎれば空気が変わる。ここからは、自然に対して平均よりも強い興味がある人しか来ない区域だ。

少しづつ闇が解けていく夜空。右手側には太平洋。左手側には世界一古いと言われる世界遺産の森。ふと思い立ってサンルーフを開けると、ガラス越しとはいえ一面の星空が広がる。道路にパプアガマグチヨタカが普通に降り立っていた。野豚が車の前に飛び出して来た。圧倒的な自然の存在感。人間たちが目覚めるまでは、ここは精霊たちが住む森なのだ。

私は今日は自由だ。1日、好きなものだけ見て、好きな事だけ考えて、自然の一部になるのだ。私はなんで生まれた土地からこれほど離れて、今この景色を見ているのだろう?人生どうなるかほんとにわからないなと少し笑った。悪くはない。周りの人には申し訳ないと思っているが、もう2度とない人生を今から修正する気はない。残っている時間はもう限られるのだ。

ロッキーポイントを通過する際に朝日が太平洋の水平線から登った。
朝霧が地面近くを覆い神秘的な景観を醸し出している。ディンツリーのケーブルフェリー乗り場につき、人々がやってくる前に静寂の太古の川を一人静かに眺める。野生の川だ。人間に管理されていない。朝霧の水面を、沢山のトキ達が飛んで行く。ルリミツユビカワセミが川エビを捕らえ、もう1羽がそれを追いかけていく。対岸でものすごい音とともに水面が割れた。何だ?何がいるんだ?暖かいコーヒーがあったらな、と思う。
朝ご飯のバナナパンを食べながら、何千年も前から少しも変わっていないと思われる川の様子を神妙に眺める。食物連鎖の雰囲気を全身に感じる。完璧な1日の始まり。

フェリー乗り場からしばらく走ると目的の私有地に付いた。今日は半日ここで特別にバードウォッチングをさせてもらうのだ。
willie「おはようございます。楽しみにしていました。宜しくお願いします」
ご主人&奥さん「ようこそディンツリーへ。いい天気だね。車は向こうに停めてね。」
willie「はい。(準備しながら)蚊は多いですかね?」
ご主人「おう!山ほどいるよ!だーっはっはー!!」
奥さん「無料でサービスよ!うわーっはっはー!!」
…。なんだ?そのテンションは!?
急に不安になったが、二人に案内してもらって敷地内を歩く。複数ある池や湿地には全くと行っていい程鳥はいなかったが、熱帯雨林に入ると次から次へ飛び出してくる。一部名前を挙げると、ケープヨークオーストラリアムシクイ、コウロコフウチョウ、キムネハシビロヒタキ、ノドグロセンニョムシクイなど。同時に、蚊の数も凄い!この数は、真夏のパロネラパークの奥以来だ。立ち止まると20匹以上が止まってくる。もちろん、日本の蚊であれば10m以内には近づかない程念入りに虫除けはしていても。まぁそんなに大した問題ではないけど。同じ木にオナガテリカラスモドキのコロニーとシロガシラトビの巣があった。キムネハシビロヒタキが1m前に出たのに撮れなかったのは痛い。
ご主人たちは、「マンゴスチンを出荷している」といっていた。敷地内には他にも多くの果物が育てられていたが、マンゴスチン以外は家庭内消費用なんだろう。鳥についてはともかくとして、二人の植物に関する知識は半端ではない。ひょっとしたら、と思い最近気になって仕方ないディンツリーリバーリングテイルポッサムのことを聞いてみたら、「うーん?」という感じ。動物系の人ではないらしい。結局3時間程で45種類の鳥を確認し、お礼を言って別れる。トンボや蝶もとても多い所だ。
お昼には早かったが、早起きのため空腹感を覚える。ディンツリー村のビッグバラマンディに行こうとも思ったけど、もう少し我慢して車ごとフェリーに乗りディンツリー川を超える。フェリーというか大きな浮き桟橋をワイヤーで引っ張る感じ。

揺れもなく、不思議な感覚だ。この渡し船には鳥たちもいつも便乗している。疲れたので運んでほしいのだろうか。鳥だろ!

ディンツリー川を渡り、険しい峠道を登りきるとアレキサンドラ展望台がある。ここからはディンツリー川の河口部を眺める事が出来る。ただ、樹がずいぶん伸びて来て少し視界は以前より狭くなっているように感じた。

熱帯雨林のトンネルのようになった道を進むと、クーパークリークを超えソートンビーチに到着する。ビッグバラマンディにかわって、ソートンビーチにあるカフェオンザシーにてランチにする。
店員「おひとりですか?」
willie「はい。」
店員「まああ!それは悲しい事だわ!」
ここもなんだかハイテンションだ。どうだっていいじゃないの。

(こういう写真は得意な気がする)
オープンサンドイッチは今までにない味でおいしく頂きました。なんと言っても、席から防風林を通り越して素晴らしいソートンビーチが見える。

完璧な景色。広い空間。人影はほぼなし。これ以上どんなビーチがあるというのだ。

気がつけばお昼下がり。バードウォッチングには厳しい時間だ。ということで、予定していた昆虫博物館ヘ行くことに。カフェオンザシーから一度南に戻り、クーパークリークにて右折する。
ここは、オーストラリアに限らず世界中の昆虫を標本展示している昆虫博物館だ。オーナーと奥さんは、発見した新種に自分の名前を付けて申請し、複数が世界中で認められている研究者。ニジイロクワガタからヘラクレスオオカブトなどメジャーどころはもちろん、南米、アフリカ、アジア、よくこれだけ収集したものだ。説明も結構興味深い。

この昆虫博物館についてはまた後日まとめる。なにしろ、見ての通り室内がかなり暗いのと、フラッシュ禁止のため写真が難しいのだ。例のモノが届いてからまた行く。
この人たちなら、と思い最近気になって仕方ないディンツリーリバーリングテイルポッサムのことを再び聞いてみたら「この谷にも生息はしてるらしい。ただ、誰一人見た事はないよ」「その図鑑の写真は動物園のやつだぞ」と。かなり厳しいようだ。
ちなみに、もうほぼ引退しているけどケアンズのバードウォッチングのスーパーガイドアンディーじいさんにも「何かディンツリーリバーリングテイルポッサムの手がかりはないかな?」と尋ねたが、彼ですら見た事がないらしい。また、大学の鳥類学部を卒業し(そういうのがあるのも凄いが)、キングフィッシャーパークのオーナーかつオーストラリア野鳥の会の重鎮でもあるキースにも同じ事を尋ねたが、「知り合いにあたってみるよ」との返事。はぁー。そんなに珍しいのか。そうなるとますます見てみたいなぁ。どうしよう。
余談だけど、全国的に著名なバードウォッチングガイドに似合わずアンディーじいさんは昔から白いボロボロの軽自動車に乗っている。ツアーもその車でやる。曰く、「軽自動車でたどり着けないのはケープヨークくらいだろ」と。そ、そうかなぁ?この間一緒に出かけたセダーパークリゾート手前でスタックしたじゃんよ。
昆虫博物館を後にし、更に南へ戻りよく知られたディンツリーアイスクリームカンパニーで休憩する。

ここは、果樹園がメインでアイスクリームはメニューが一品だけ!という気合いが入った店だ。まぁ普通においしい。(まずいアイスクリームってある?)$4.5。

夕方も近づいて来たので、目的地のマージャ遊歩道へ向け北上する。これより北はケープトリビュレーションと呼ばれる。そこも行きたい所が沢山あるんだけど日帰りは無理なので。
遊歩道では、熱帯雨林とマングローブ林の融合が非常に面白い。雨林だったり、干潟だったり、潮溜まりがあったり淡水の小川が流れていたりある意味めちゃくちゃな所だ。独特の雰囲気があり、この辺まで来たらいつも立ち寄る所。残念ながら今日は鳥に関しては散々。でも一脚の機動性を確認できて良かった。

早朝からずっと動き回って、とうとう日没間際となった。ディンツリーには興味深い夜の動物探検ツアーがいくつもあるのでどうしようか迷ったけど(日本人向けの餌付けされた動物探検?ツアーとは異なり、2時間とか夜の森を動物を探して歩くので、軽い気持ちで参加すると後悔します。もちろん動物はいてもかなり遠くか、すぐ逃げます。本来そういうもの)ここからケアンズまで帰るのに2時間かかる。今日はここまでだ。
自然バカの1日が終わった。明日は仕事だ。また来ます、ディンツリー。

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