Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

ケープヨーク深南部 その3「立ち往生」

こうなってしまったものはしょうがないので水が引くのを待つ。急に増水したわけだから急に引くはず。軽く有事の備えをしていたのでフルーツ缶詰やジャムパン、数リットルの飲み水、ガスコンロと燃料がある。まぁ何日かは大丈夫だろう。私のテルストラ携帯電話は圏外だけど、ランドクルーザーに乗った公務員の二人組のNext G カントリースペシャルは余裕で圏内。さすが政府車両は最高の装備だ。その電話を借りて、しばらく帰れなくなった事を会社に連絡。当然ながらぶつぶつ言われる。
ルリミツユビカワセミが飛ぶしハゴロモインコはそこら中におり、これまで数える程しか見た事が無いアカエリツミが見られラッキー。


オージーも負けていない。濁流の川岸から釣りを始めた。餌はその辺の地面を掘り返して何か取ってた。いや、こんな洪水の川で釣れるわけねーだろ。魚も洪水に参ってるんだよ。

釣ってるし。
オージーのこういうところが好き。

日が暮れて来て、月明かりだけの世界に変わる。そうこうしている間に後から3台車が到着。1台は地元のアボリジニが運転するランドクルーザー。もう二台はクックタウンから狩りやボート釣りに来ていた若者4人組と猟犬数匹を載せたランドクルーザー。これで合計して立ち往生しているのは10人と猟犬数匹と鳥が1羽(アサヒ)。前回ケープヨークに言った時も思ったけど、レイクランド以北は車はランドクルーザーだらけになる。


半裸に裸足、頭にはヘッドランプといった出で立ちの若者4人組は「おいおい大丈夫か?」の声をよそにスクラムを組んで漆黒の激流を徒歩で横断、無事偵察を終えて戻って来た。水に良くなれている。感心する。

四人組「まだちょっと無理だ、お前の車(私のエックストレイル2500cc)では全然無理だ」との意見。そりゃあすみませんねぇ。安い車で。

釣りのおっさんや4人組は周りから枯れ木を集めてそれぞれキャンプファイヤーを始めた。歯磨きでもするかのような、無駄の無い慣れきった動きである。あっというまに二カ所で火が立ち上った。…暑いんだけど。どうやら、アウトドアで日が暮れたら火をおこさなきゃ!みたいな条件反射行動らしい。

しかし、こういった半野生/裸足系オージーはほんとに魅力的だ。私もアウトドアやサバイバルはある程度経験も自信もある方だけど、彼らは日常の一部のような完璧な動きだ。日本人では見る事の無いタイプだ。

水位は下がり始めたけど他にも問題が発生していた。大きな木が倒れ、道だった所を塞いでしまっている。水が下がっても、この木をどうにかしないと川を渡る事ができない。夜の闇の中、腰まで濁流に浸かりながら持っていたのこぎりで切れ目を付け、他のオージーと3人でうぉーと引っ張ったらばきっと木が折れた。やれやれ。

さぁ少し休んでおくか、と車に入り丸くなり眠りにつく。オーストラリアではこの程度では消防も軍も出動しない。というか「助けに来て!」という要請自体オーストラリア人はしないだろう。生命が差し迫っていない限り、自分のことは自分で責任を持てというのがオーストラリア辺境のルールだ。


いつか渡れるだろうか。このまま雨期になってしまうのでは?残りの食料は?会社に怒られるなぁ。

暑い夜だった。少し、雨が降り始めていた。立ち往生開始から10時間経過。

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