Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

ケープヨーク深南部 その10(ついに最終回)

ラウラ川
轟沈したトラックの脇をすり抜け、どれもおんなじようなランドクルーザー70達が続々と荒れ狂うラウラ川を渡る!お前ら船か何かか?このような狂った設計の車が日本国内で生産されていることが信じられない。

まだ結構深いな…。しかも道路が水没しているのではなくて、もともと河原なのだからとても地面が柔らかい。さらに強い流れに逆らって横断する形になるからそれも厳しい。

急流を遡るランドクルーザー艦隊。というかさ、荷台に載っている人達は何なの?

撃沈トラック脇をすり抜けるオージーの突撃作戦の成功で三日間難民生活を共にして来たメンバーはほとんどラウラ川を渡り消えていった。また1台っきりだよ。様子を見に来ていた地元の人に私の車ではやはり無理かなと尋ねるとそれがもう。

そうれはもうぼろくそに言われた。ランドクルーザーだから渡れるのであってランドクルーザー以外など車ではない、くらいの剣幕だった。すごいな、ここまでいくと信頼というか信仰に近い。ランクル、もとい、ラン狂だ。これだけ信仰されれば、日本での価格の二倍、およそ750万円もしてもたくさん売れるはずである。「そんな小さな車(エックストレイル2500cc)は途中で立ち往生するに決まってる、救助する方の迷惑を考えろ」「ランクル以外でこの地に来るなんて正気の沙汰じゃない」などなど。あのさ、まず何日も立ち往生して困って相談しているのに、そんなに怒らなくてもいいじゃない?少なくてもあなたにまだ迷惑はかけていない。その日は怒りで頭から湯気を出しながら眠りについた。ラン狂どもめ!

何日目かの朝が来た。ラウラ川周辺は依然として雨は降っていないけど上流レイクランドではサイクロンに伴う激しい雨が降っているとの事で間もなく水位は急激に上昇に転じるだろうとの事。今日ダメならまた数日間は難民生活だろう。アサヒをキャンプに置いて、川まで来てみると水位は昨日と同じ位…そういえば?別の箇所から川を渡る可能性に気がついた。みんなが渡っている場所の少し下流側。そちらの方が明らかに浅いし、ザバザバ歩いてみたところ川底も固くしっかりしてる。こっちから渡れそうじゃない!

でもみんな何故ここを通ろうとしないんだろう?過去記事の写真とかも見て欲しいけどみんな同じルートを通っている。あれかな、他の場所から渡ろうとすると川の神の怒りに触れるとかそういうのかな。地元民に意見を求めるとまた「ランドクルーザーじゃない車で!!」とぼろくそに言われそうだから決別してひっそりと新ルートでの横断を決意。それから一人で治水工事開始。岩をどけたり、石を敷き詰めたり、流れを変えたり。子供の頃私はこういうの大好きだったなぁと。一日中近所の川であそんでたもんな。今は遊びじゃないけど水泳には相当な自信がある。ふと視線を感じて振り返ると、高台から地元の人達が「あのバカは何をやっているんだ!」という雰囲気で見下ろしていた。無視無視。私は自力で脱出する。

その時、通常のルートで渡ろうとした地元のパトカー(ランドクルーザー70Troop、4200ccターボディーゼルという怪物)があっさりと埋まった。「いやーまだ全然無理だね?」といってトラクターに引き上げられ帰っていった。いや、ここは川底が柔らかいから大変なだけだってば。そういえばこの前にも日産サファリ(エックストレイルの兄貴分)が突入して埋まりエンジン停止。村人達に引き上げられ、道ばたでエンジンを分解して修理が行なわれていた。ランクルでもサファリでもダメか。でも私は別の考えがある。一人黙々と川に入って治水工事を続け、その下流ルートで間違いなく渡れる確信を得る。


さぁアサヒ、行こうか。

鈍感で頑丈な子で良かった。(オフロードを時速100kmで走る車の中で平気な顔で遊んでいる)

さっきまで川の中で作業していたのでびしょびしょのまま運転席に座り、ゆっくりと発進。ついにラウラ川突入の時が来た。両岸にはもう誰もギャラリーはおらず、この先どんな結果になっても全ては自分の責任である。

だれも気づかないのか渡ろうとしない地点から川へ入り、しっかりとタイヤが川底を掴む感触のなか中程まで順調に進む。続いて最初の難所、川の流れに正面衝突する区間を無事に抜ける。

もっとも懸念された区間へ突入。水深はボンネットくらいで川底が柔らかい砂地の区間だが、突破。難所はあと一つ、川の流れに逆行する場所を突っ切ってラウラ川突破!!脱出だ!超えた!

嬉しいというよりはこの何日かで30年分の罵詈雑言をランクル教徒達から浴びた反動で「見たか、ざまぁみろ!!ざまぁみろ!!!この野郎!!見たか!!見たか」と窓から腕を振り回し、叫びながらラウラをあとにした。

昔、オフロード走行のトレーニングを受けた時、教官が「性能が劣る車でも経験がある人が操れば、いい車に乗った無知な人よりも行けるものだ」と言っていたのを思い出した(教官の愛車もランドクルーザーだったが)。少なくとも、ランドクルーザー70や日産サファリといった圧倒的に優秀な大型車が立ち往生してサルベージされた場所を地元民にけちょんけちょんに言われた小さな車で外国人が助け無しに超えたのだから、罵詈雑言のお返しとしてこのくらい言う資格がある。

その翌日からサイクロンがケアンズ周辺にも凄まじい雨を降らせ、ケアンズも多くの場所が水没したのは記憶に新しい。あの日あの時に渡っていなかったら、少なくともあと十日間は難民だったはずだ。(完)

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