Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

セスジムシクイ調査ボランティア三週間 その8(ヘリコプター)

オーストラリアの廃村

その7で紹介したような、めっちゃくちゃな道を進むこと数時間。4WDでも進めるのはここまでで、この先はなんとヘリコプターでさらなる奥地へ輸送される調査隊の面々。ここはかつて鉱山が操業していた時代の廃村。


今回の三週間の調査中ムナグロオーストラリアムシクイは何度となく出会ったが、繁殖羽のオスはこの一度っきり。画面右上にメスが飛んでいる。



全く人間のいない荒野に忽然と出現した廃屋達と「アスベスト汚染 立ち入り禁止」の看板が怖すぎる。同行のタカラ君に「こういうところで重要なアイテムが手に入るんだよ」というと爆笑していた。


それにしてもこの廃村の孤島っぷりがすごい。一番近くの町(Mt ISa)から450km来て、次に一番近くの村(Gregory Downs)から未舗装道路を100km,そこから大型4WDでヘロヘロになりながらスーパー未舗装道路を数時間かけてたどり着ける。しかし我々が調査をするのはさらに数十キロ奥。三人づつヘリコプターで原野に降ろされて、夕方にまた回収されるという大きな予算を投じたものだ。太田はヘリコプターに乗ってもらうぞ、とはケアンズを出る前から博士から聞いていたのだが私はてっきりジョークだと思っていた。


このヘリコプターライドは感動的だった。こんなに幸せでいいのかな、と近年よく思うのだけどそれをさらに上回って「今ここで死んでもいい」とさえ感じだ。


高度わずか100m、そしてドアのないヘリコプターは全身に風を受け、まさに野鳥が飛んでいるのと同じ感覚。地上の起伏や水場もよくわかる。鳥はこうやって飛んでいるんだ!そしてなんという途方もない景色。神奈川県よりもはるかに大きいローンヒル国立公園の99%は今貸切で私たちのためにある。


ヘリコプターで飛んでも飛んでも無人。そこには原野しかない。地平線まで原野しかなく、人間も建物もない。


そして、この世の果てとも呼べそうな原野に着陸。ここは氷河期が終わって以降、数万年特に景色が変わっていないはずで、人類としてここを通りがかったのも何人目だろう。ヘリコプターが飛び立つとそこは氷河期が終わった頃の地球に戻った。「時間になったらここでまた会おう」と二手に分かれて出発。孤立感、特別感に全身がゾクゾクする。


もちろん道もないし、目立った起伏もないので原野ナビゲーションスキルは必須。ガーミンGPSを使っていても、トレイルが間違っていたりないものがあったり(立ちふさがる川とか)する。ここで迷ったらミイラへの最短パスポートだぞ。


ムナジロセスジムシクイが生息できそうな場所を探して原野を歩き回り、特別に編集された音声を再生して探す。しかし我々がヘリを下された地域は、ムナジロセスジムシクイ生息の鍵となるスピニフェックスが小さい。どの写真や動画を見ても小さい。おそらく何年か前に山火事が一掃し、その再生途上にあるエリアのようだ。

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