Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

セスジムシクイ調査ボランティア2週間 2017年版その8 ベトゥータ伝説

アカカンガルー

バーズビルトラック脱出を成功させ、進路は再び北を指す。つまり少しづつケアンズへ向けての帰宅が始まったという意味になる。家を出て18日目くらいかな。それでもまだ2000km以上はあるが。車窓には美しいアウトバックとアカカンガルー。オーストラリアのアイコンであるアカカンガルーだが、内陸に暮らしているので普通の観光客はあまり見る機会がない。


シンプソン砂漠やバーズビルトラックの映像の一部。こんなところに本当に行ったんだなぁ一人で。。


←じゃーん。今日はずっと来て見たかったベトゥータに立ち寄ります!

真面目な人生を送っている人でベトゥータを知っている人なんて1人もいないと思うけど、ここはごく一部のオーストラリア人にとっては熱狂的な巡礼地である。まずはこの道路標識をよーく読んで欲しい。↓




「ベトゥータにようこそ、標高70m、人口0人」

何だ、そんなのよくある廃村じゃないか!と言うところだが、最後の一人が死去しベトゥータが人口ゼロになったのは近年のことで何十年に渡ってこの砂漠の真ん中で「人口1人」を死守し続けていたことで知られる。


サイモン、またはズィギーと呼ばれたその爺さんは、この砂漠の真ん中で酒場とガソリンスタンドを孤独に何十年に渡って営んでいた。彼が死んだ後も取り壊されることなく、全ての建物は主人を失って荒野に立ち尽くしたままである。


現行型の公衆電話ボックスが、この場所がかなり最近まで使われていたことを語っており胸を打つ。


これは…すごい廃村だな。というか人口が1人の時点でもはや村ではなくて、家じゃん。インタビューで爺さんが言ったという『ここは…いい村じゃよ』とのセリフに人生を考えさせられる。


これはその爺さんの買い出しルートを再現。ある程度の規模の最寄り村であるバーズビル(といっても100人くらい…)までオフロードを170km、片道6時間弱だから、往復で休憩も入れればオフロードを14時間くらいの買い物。不在の間も酒場は開け放たれており、常連は適当に冷蔵庫から酒をとってお金を置いておくというシステムだったらしい。常連というのはどんな人たちだったんだろう。↑グーグルマップが真っ茶色のすごい事になってる。こんな世界を想像したことあるだろうか?これがオーストラリアの7割を占めるアウトバックであり、バーズビルの村の北や西にたくさんある縦縞のような地形はあのビッグ・レッドのような無数の砂丘である。


←私は、このランドクルーザーの広告の話や映像はベトゥータのことじゃないかと思っている。




爺さんの墓。背後は普通に地平線。見事な人生に合掌。



アウトバックを舞う、オーストラリア最大の猛禽オナガイヌワシ並みに自由な一生だったに違いない。いや、オナガイヌワシのペアの縄張り面積はせいぜい最大100km平方とされるからサイモン爺さんのそれはそれどころじゃないくらい広いな。それに一人だし。一人と二人とでは土俵が違いすぎる。



数時間運転してバーズビル以来となる「まともな」村に到着した。逆にバーズビル方向へ向かう旅人達にとってはこの先400kmほど酒場がないよ、という道路標識。ベトゥータがなくなっちゃったからな。

というか、酒があるないよりもさ、ガソリンスタンドが400km弱ないということの方が重要じゃない??ヨーロッパ人の若いカップルの車が砂に埋まって、49度の気温の中を助けを求めて歩き出して程なく脱水症状で死亡したのってこの辺じゃなかったっけ。



ここもベトゥータに負けず劣らず凄い家が残ってるな、と思ったら杖をついた爺さんが中から出てきてその椅子へ座った。この家とそのお爺さんの組み合わせは私は「世界遺産…!」と思った。これだけを見に旅を計画する価値がある、と。

Exit mobile version