Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

階段とネオン


 ケアンズのバスターミナルがついに取り壊し開始。
昔は長距離バスも、グレーとバリアリーフへのクルーズもここから出発だった。ターミナル内はバス会社やクルーズ会社、インフォメーションセンターがひしめき活気があったが、近年は使われなくなり廃墟のようになっていた。月並みな、と思いつつ寂しい。
 7年近く前、24時間2000kmバスに揺られてこのターミナルに私はやってきた。何もかも初めてのよそよそしい街。
 その後、自分を鍛え直したくて地の果ての農場で3ヶ月間住み込みで働いた。人口70人の村。村には雑貨屋が一件だけ。360度地平線。携帯電話どころかテレビもラジオも入らない。郵便や新聞は週に一回。オーストラリアの農業で最も過酷な労働と言われる作物が相手。住居は3帖プレハブ小屋に二人。カセットコンロで自炊。人間が、いかに余計なモノに囲まれているかよくわかった。生きる上で本当に必要なものなんて本当に少ししかない。
 三ヶ月後、週に一便だけのバスに乗り真夜中に戻ってきたこのターミナル。ネオンを見て胸が熱くなったのを鮮明に記憶している。ひさしぶりに使う「階段」というものを踏みしめながら何故か一人で笑った。
 壊されていくその階段を目の当たりにして、シャッターを切った。

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