Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

ケアンズ付近の熱帯雨林の多くは「世界最古の森」では無い可能性


Tim Lowの著作、where song beganを読んでいる。この本の中でケアンズ付近の熱帯雨林、特にディンツリーなどの標高の低いエリアは「現存する世界最古の森」であることに対しての否定がなされている。一般的にケアンズ周辺の熱帯雨林は「世界遺産 クィーンズランドの湿潤熱帯林」として世界最古として旅行業界に宣伝されることが多いけど、確かに世界最古を主張する森林は他の国々にも存在している。world oldest forestと英語でググってみるといい。たくさんヒットし「それはニューヨークだ」「日本だ」という研究さえある。残念ながら世界に供給される情報の過半数は英語のものだ。日本語での情報はせいぜい数%にしか過ぎないので、それだけを読んでいたら見聞は限定され、時に大きく間違える。

Tim Lowによればディンツリーなどの低地に広がっている熱帯雨林は古いものではなくアジア起源の新しい森であるとされる。その根拠として

 1.ディンツリーの森のメインの樹木であるネイティブナツメグは近現代の植物であり、一番古い化石でも何万年か前までしか遡れない
 2.ネイティブナツメグは世界に440種類あるが、ディンツリーにあるのは4種のみ
 3.その他の目立つファンパーム、ジンジャー、イチジクもアジア起源 
 4.とにかく化石による証拠に乏しい
 5.実際不思議なほど動物は少ない


1-4に関しては専門外なのでコメントは控えるけど、5の「不思議なほど動物が少ない」には同意する。野鳥関係者も皆そうだと思う。ディンツリー地区はヒクイドリを除けば取り立てて野鳥の見どころはなく、アサートン高原に比べれば数も種類も明らかに劣る。ケアンズ周辺の固有の野鳥の大半はアサートン高原などの標高の高いエリアに暮らしており、ディンツリーはプロのツアーで訪問する場所ではなくナイトツアーなどに関してはほとんど何も見つからない、とも言われている。

Tim Lowによれば「現存する世界最古の森」に値するのは山間部の狭い二箇所だけであり、低地においてはそういった宣伝はやめるべきだという。低地というのはディンツリーだけでなく、たとえばウールーヌーランやスカイレール付近、モスマン、キュランダあたりも含まれるのでは無いかと思う。彼は、それらの低地の森はマレーなどから南進してきた新しいアジア由来の森だと考え、類似性を指摘するいくつかの研究を引用している。
ディンツリー熱帯雨林
←ディンツリー熱帯雨林。確かに美しいが

観光業界には申し訳ないけど、専門的な野鳥ガイドとして長年感じていた動物の配置とTim Lowの説は矛盾しない。なぜ固有種とされる野鳥の大半がアサートン高原などの高地にいて、ウールーヌーランやスカイレール付近、モスマン、キュランダ、ディンツリーなどの低地では軒並みでは不在なのか。ケアンズ周辺沿岸域の低地熱帯雨林にはゴンドワナの生き残り的な奇跡的な価値はない可能性がある。

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