Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

過去のリビングインケアンズ連載記事(簡略版) 7

渡り鳥は、地球環境を考える上でこの上の無い指標の一つである。人知を超えたこの自然現象を将来の世代が享受できるかは私たち次第である 

スミソニアン博物館研究者 トーマスEラブジョイの文章だが、渡り鳥達は他の地球生物と比較すれば桁外れの行動範囲と移動速度、多様なナビゲーション能力を持っており確かに地球環境の変化を一番良く知っている生き物かもしれない。彼らが健全な状態にある為には、国境を越えて広大な範囲の自然環境が良好に保たれる必要がある。


穏やかなケアンズの冬が近づき、渡り鳥たちの多くは北半球等へすでに旅立った事と思う。寒い冬の間を南半球で過ごす、という渡り鳥の行動はとても分かり易く見えるが、それほど単純なものでもない。海岸通を歩いてみて見るといい。今でも滞在を続けて帰らないやつがいる。また、南北ではなく東から西へ渡りをするグループもいる。若鳥は渡るが成鳥は残留するグループや、繁殖を予定した個体だけの渡るグループ、内陸部から沿岸部への渡り、はたまた高地から低地への移動などパターンは多い。
9000mもの高度を飛んで行くものから、天候によっては地表近くを飛ぶものまで。いやいや飛ぶとは限らないぞ。ペンギンやウミツバメは泳いで、エミューは歩いて移動する。早朝に発生する上昇気流に乗って主に午前中に移動をする種類、夜間に星や磁気を便りに移動する種類、アマツバメの仲間のように繁殖地に居ない間の9ヶ月間はずっと飛び続けていると考えられている飛行マシーンのような種類など、渡りは渡り鳥の種類だけの形があると言える。

ケアンズでも様々なタイプの渡り鳥を見る事が出来るけど、今の時期であればチャイロハヤブサやコシアカショウビンなど内陸から沿岸部へ近づいてきている種類が面白いだろう。この時期でなければ、かなり内陸へ出向かないと数が少ないからだ。別のケースとして、年間通じてケアンズ周辺にいるヒジリショウビンやクレナイミツスイ、ヒメハゲミツスイといった野鳥達は渡り鳥とも言える。なぜなら彼らのうち、オーストラリア南東部に住んでいた個体は寒さを逃れてケアンズ周辺までやって来て合流するので(その中の一部はケアンズを通り越してニューギニアやインドネシア方面まで飛んで行くものもいる)タイミングによってはやたらにあちこちにいたりする。ある日を境にどっと数が増えたりすると、南方からの鳥の団体旅行ご一行様が到着したようでなかなか可笑しい。ツアー名はこうしよう。

【暖かいケアンズで過ごす90日間 カニ食べ放題】
発着:オーストラリア各地 (各自、自力でケアンズへ移動)
宿泊:各自、自力で現地にて確保

バードウォッチングをしていない人にはちょっと実感が湧かないとは思うけど、渡りという行動を多少なりとも理解した上で改めて鳥を見てみれば今まで以上に自然の移り変わりに気がつき、いろいろな感情が湧く事と思う。鳥は地球でダントツの機動力を持ち、年中同じ場所に同じ種類や個体がいるわけではないのである。羽をボロボロにして到着した鳥を見れば讃えたくなるし、来るはずの時期になっても来なければ心配するし、ケアンズを旅立って行く姿を見れば寂しくなるし。たまに行き先を間違って来るはずのない種類が迷い込んで来たり。いろいろな鳥との出会いを求めて、季節ごとにあっちへ出かけたりこっちを見に行ったりしていると時間やお金はどれだけあっても足りないけど、沢山の感動や達成感を貰う事が出来る。

人間は、衣食住以外にそういった抽象的なものをもっと大事にすべきである。

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