Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

過去のリビングインケアンズ連載記事(簡略版) 3

いよいよ九月。ケアンズのバードウォッチングハイシーズン開始だ。

もともと相当な数で存在する留鳥に加えて北半球や東南アジアからの渡り鳥がぞくぞく渡来し、より一層に数、種類ともに増加する。それを求めてオーストラリア各地の愛好家がケアンズに集まってくる上、ヨーロッパやアメリカ、シンガポールや台湾といった地域のバーダーも一気に増える。有名な宿は1年前から予約で埋まっているのがこれからの時期だ。

日本の野鳥の会や愛好家は少し遅れて十二月頃にやってくる人が多いのは、「世界で最も美しいカワセミ」と言われるシラオラケットカワセミがその頃にならないと飛来しない為であって、それはそれでいいがマリーバよりも西や北の乾燥帯では気が遠くなるほどの暑さに見舞われる為(しかも一日中炎天下の中、屋外を歩き続ける上に、三脚や望遠鏡、図鑑、双眼鏡、大型カメラなど装備が重い)野鳥観察には九月、十月の方がいい面も幾つかある。さぁ今年もがんばろう。そして楽しもう。


渡り鳥を簡単に見るには、まずは双眼鏡をもってエスプラネードの干潟ヘ行ってみるといい。ケアンズエスプラネードでは一日中多くの人が散策しているため野鳥も人間に対しての警戒心が薄れ距離が近い事と、アクセスが抜群に良い、というよりはエスプラネードは街の中心部そのもの。こういう場所はなかなかない。野鳥観察はいつでもいいわけではなく、潮位が160センチ程度から始まって200センチ程度へかけての上げ潮の時。更にそれが午後遅めであれば順光となりベストタイムだ。そういったタイミングであれば、地元のバーダーも散歩がてら来ている事が多いので話を聞く事も出来る。もちろん、私も時間があればうろうろしているから声をかけて欲しい。仲間が増えるのは歓迎するし、何ならビールでもおごられてもいいぞ。

ええと、何の話をしていたのだっけ。
そうそう、そのビール、じゃなくて干潟にやってくる渡り鳥は人間では考えられない距離を乗り物にも乗らず自力で移動してくる。一般的な人間は五十キロメートル自力で移動するだけでも一世一代の大騒ぎだが、渡り鳥は五十キロどころか一万二千キロメートルを飛んでくる種類だっている。天敵をかいくぐり、食料を現地調達しながら地図もナビもなしに。例えばスズメと同じくらいの大きさの鳥、トウネン。体重二十グラム。二十グラム、十センチ強の体で地球縦断飛行って!

人間はトウネンの二千五百倍の体重がある。トウネンがシベリアからケアンズまで羽ばたいて飛んで来て、また戻っていくという事は、体重比で考えた場合に人間に同じスケールの運動をしてもらうとすると、走って赤道を千五百周しないといけない。それを、毎年やる。脚に識別用の目印を付けられた同一のトウネンが十七年連続毎年同じ場所で確認されたりもしている。わずか二十グラムというトウネンの小さな体にどこにそれだけの体力が隠されているのか不思議でならないが、ちょっと考えてみよう。

バッタは数メートルジャンプするものも珍しくないが、もし彼らが人間並みの大きさがあった場合、どれだけジャンプできると思う?恐らく、ちょっとしたビルを飛び越えるだろう。ハエは一秒間に二百回以上の羽ばたきという超高速運動を、アリは自分の体重の四百倍のものまで口でくわえて持ち上げる事が出来き、体重五十キログラムの人間が二万キログラムのものを持ち上げる事に相当する。

こうして見ると、トウネンや渡り鳥に限らず身近な生物でも皆とんでもない運動能力を持っているわけで、言い換えれば人間ほど体の大きさの割に貧弱きわまりない生き物もいないのではないかとも思う。疲れた、疲れたばかり言っていると生き物達に笑われるぞ。いや、笑ってくれているうちはいいが。

さぁ、はるばるシベリアから地球を縦断してやってくる渡り鳥達を出迎えに行こう。彼らはすぐそこまで来ている。

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