Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

過去のリビングインケアンズ連載記事(月遅れ/簡略版)13

ケープヨーク方面を訪れた事がある読者はどれくらいいるだろうか。ビクトリア州と同じという漫々たる面積を持ちながら総人口は数千人といったところ。基本的に道路は1本だけでオーストラリア4大冒険ルートの1つであるペニンシュラデベロップメントロードがオーストラリア本土最北端へ続いている。何十カ所で橋の無い場所での渡河の必要がある為に雨期は通行不可能になり、道端には力尽きた車の残骸がちらほらというタフな地域ながら、それを楽しみと感じるライダーや4WDの猛者達が挑んでいく。難路のため特殊な会社を除きレンタカー会社は立ち入りも認めていない。そういった未開な事に加え、ケープヨークは海面が低かった氷河期にはパプアニューギニアと陸続きになっていた関係もあって珍しい動植物の宝庫でもある。


2000年に初めて足を踏み入れて以来現在に至るまでケープヨークへ侵入する事都合数度、河川の急な増水で河畔に4日間立ち往生した以上の深刻なトラブルは幸いまだ経験していない。ケープヨークへ入ればそこは自己責任の世界。その程度では全く助けてもらえないどころか、「その程度の覚悟や装備で来やがって!」と現地人に激怒される(実話)。前後を氾濫した川に挟まれて30日以上も進退窮まっていた人もいる。そこは「世界で最も人が近づき難い地域」とまでいわれる辺境…だった。少し前までは。
オーストラリアの社会構造を大きく変革させてきている資源産業の歴史的隆盛の流れは、そんな鳥も通わぬケープヨークへも大きく押し寄せている。ケープヨーク中程にある町ウェイパなどはクィーンズランド州で一番豊かな町(平均所得が高い町)となり、最近では日本人会まであるというから驚きだ。昔はコルゲーションの酷い道だったケープヨーク深南部は、年々開削が繰り返され俗世間化がとまらない。更に多数の鉱山開発が承認を待っている状態だ。
また、ケープヨークは世界遺産申請への暫定リストの上位にある。世界遺産になればいままで何の関心も示さなかった人々が急に大挙して押し寄せ、観光バスや乗用車でも訪れる事が出来るように更に道路やインフォメーションセンター等が雨後のタケノコのように出現して来る事は目に見えている。手つかずの広大無辺な自然が魅力の土地。アクセスの悪さで残された未開な自然。それが低レベルな開発で本末転倒で死にゆく事は日本における小笠原の空港建設問題と似ている。手つかずの自然をそれ以上よくする事など人間には到底できはしない。ただ保全を心がければいいのだが。
うっかりスクールホリデーシーズンと直撃となった2009年のケープヨーク遠征のときは全く想定していなかったような事態に連日巻き込まれた。詳しくは私のHPに昔書いたので興味がある人は一読してみて欲しい。こんな地の果て文化果つる地までファミリーオートキャンパーが押し寄せるようになってしまったとは、もうリッジスケープヨークが建つのも時間の問題、と嘆息した記憶がある。
それほど時間はない。ケープヨークが素晴らしい所だと言う事が世間に気づかれてしまう前に、思い残すことはないほどの思い出を作らないといけない。この原稿を提出したらそのまま長駆ケアンズを脱して今年も一週間滞在するつもりだ。もちろん日程はスクールホリデーや祝日に重ならないように慎重に検討した。09年以来私のデスクにはクィーンズランド州スクールホリデー一覧表が貼ってある。子供はいないのに何の為かというと、何処へ行くにしてもとにかく可能な限り人に遭わないようにする為の重要な資料だ。
急ぐ必要がある。 ここで動物を見られるのも最後かもしれないなという場所が毎月のように身辺にある。近々大規模に伐採が行なわれる事が決まっているマングローブ、住宅開発される草原。ウォーターパークとやらになってしまう湿地。売りに出された森林。それらの場所を訪れる時は痛惜の念を込めて、輝かしい記憶とともにゆっくりと道具の支度をする。惜別の情を背負いしみじみと歩く。
 それはとても、 死期を待つしか無いペットを見ているよう。
 それはとても、 惚れた女性と別れる朝の様。
 それはとても

Exit mobile version