Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

15万羽の野生セキセイインコ – 長い旅の終わり

あれは2009年11月のこと。

マウントアイザ郊外に発生したセキセイインコの大群(一万羽以内)に立ち会うことのできた私とO君はそれ以来もう一度あの光景に出会う事を推進力に私は野鳥ガイドに、O君はインコ写真家として本格的に昏倒していった。程なくしてYさんもそれに加わり、神出鬼没な野生のセキセイインコの大群を求めて過酷なオーストラリア内陸部で多くの月日を費やしてきた。

私はマウントアイザに10年間で約100日。ジョージタウンには300日近く。アリススプリングスへ4度行き、ボウラ。バーズビル。パーマーリバーへ、ビクトリア州北部にも3度も足を伸ばした。大陸を探し続けた。毎年何十日も訪問を重ねた。いつしかそれは仕事の柱の一つになり世界でおそらく一番野生のセキセイインコに関わっている専門家になった確信がある。3000-5000羽クラスの群れは何度か遭遇したが万単位の群れを見たいというハードルは高い。もう一度あの時のような大群を見たい。そして同じようにそれを望む人々に見せてあげたい – 特にO君やYさんに。

2019年の事。それは熱波の襲う乾いた朝だった。10万羽クラスの群れがニュースでも報道され、10日遅れで探し始めて延べ五日目の朝。すでに走行距離は3500kmに達している。あまり手応えのない空気が流れるアウトバックの地平線に「ふわっ」と急に浮き上がった緑の雲のようなもの。山…?じゃないよ、「地平線に大群!!」一瞬で手が震え始め、緑の雲を追って4WDのルーフラックに駆け上がった。3人はあまり喋らなかった。意外にも涙も流れなかった。


前例のない途方もない大群。全方向から次第に集結し、ぶつかり合い、せり上がり地面に臥す。空前の規模の大群を捕捉した。砂丘の砂が崩れるように、風で舞い上がる砂塵のように複雑に躍動する大群を見ながら思った。

これでもうある程度死ぬ準備ができた。なぜなら地球には、人生にはこれ以上のことはもうないよ。私は『野生のセキセイインコやオカメインコを群れで見たいという方々へ』という古い記事の中でこう書いている。

“前述のような8万羽の大群などに砂漠のどこかで出会えたら私はもうそこで死んでも良いとさえ思っています”

O君やYさん10年かかったね。おめでとう。オーストラリア在住でもない二人が長年費やしてくれた情熱に、心からの感謝と敬意を。

一つの長い旅が終わりを告げた。

Exit mobile version