夕方。餌場になっている草原には美しく照らされたセキセイインコが飛び回る。
万単位の大群を置いて移動してきたわけだが、それはこの地域が比較的我々に研究されており、例えその数が最大で1000羽程度であっても色々なシーンを見られる自信があったこともある。キャンセルしても戻ってこない宿代が勿体無いという理由ももちろんある。
これぐらいまで接近して撮るんなら数百羽だろうが数万羽だろうがもはや関係ない。
三日間の総仕上げという感じで色々なシーンを撮る。
新種シロハネセキセイ!?翼が陽光で輝くセキセイインコ達。
2019年1月時点でのAAK Nature Watch2号車。2月には更に変身しており、なおパワーアップさせる計画もある。一方でO君のレンタカーはアウトバックでまたパンクし、後日ばれずに修理して返却するのに苦労していた。一応書いておくが、通常レンタカーで未舗装道路を走ってはいけない。走っていいのはパジェロとかランクルとかのクラスの高いレンタカーを借りている場合だけである。
400kmくらい移動して来たので、それほど雨雲はまだこちらにやってきてはいない。しかし一週間後にはこのエリアもろとも水に沈むとは誰一人思っていない。
明日の朝の探鳥が最後ということで二手に分かれることにした。私は昨日見かけてピンとくるものを感じた未知の池に張り込む。他の三人は既に実績のあるL池に飛来するセキセイインコを撮影する。すごいシーンになってきたら衛星携帯電話で連絡を取り合って合流する。9時にはどちらも宿に帰着すること。以上。
明朝。こちらは未知の池担当チームです(一人だけだが)。おるわー直感の通りやっぱりいっぱいこちらに来てるわ!!
いざっ!!動いているのは翼だけで、頭や胴体は安定していることが写真からわかる。
水を飲むために群がる。瞬間最大時で1000羽程度だった。
衛星携帯電話で電話したが、O君のL池の方もボチボチやっているということなので、もう合流せずそのまま別々に時間まで過ごすことにした。
こうして歴史的な15万羽もの大群をキャッチした遠征は終わりを告げた。その後この地域がどうなったかは、国際ニュースでも報じられた通りだ。100年に1度と言われる猛烈な長雨により半砂漠地帯は水没。牛だけで数十万匹が水死し、地上性の鳥や虫、爬虫類などに甚大な被害が出ている。世界有数の鉱山であるマウントアイザから搬送途中だった亜鉛や鉛を満載した貨物鉄道もレールごと水中に沈み、詳細な被害はまだ明らかになっていないが鉛中毒汚染により生き物の住めなくなった場所も出ているだろう。鉄道の復旧は4ヶ月かかる見込み、という報道から現地の激甚災害ぶりが少しは伝わるだろうか。道路が通れるようになったのでも今日、実に一ヶ月も経ってからだ。
このクィーンズランド州は日本国5つ分の面積があるんだけど、この通行止の図から洪水の規模が推測できるだろうか?
この15万羽のセキセイインコは一週間前は見つからなかったし、一週間遅かったらたどり着くことも出来なかった。一ヶ月経ってもたどり着けなかった。この幸運は10年に渡ってオーストラリアの原野をセキセイの大群を探し回ってきた我々三人への、生涯のプレゼントだったと今では思っている。
鳥類のなかでも類まれな機動力をもつセキセイインコの大群はギリギリで洪水を交わし、幾千里離れた安全な地域へ到達したと信じている。私たちが見つけた約15万羽のセキセイはその後行方不明。オーストラリアの巨大な内陸部を今日も彼らは流離っている。(完)