Site icon 【公式】オーストラリア唯一の日本語専門バードウォッチングガイド 太田祐(AAK Nature Watch)

野生のセキセイインコやオカメインコを群れで見たいという方々へ

野生のセキセイインコ群

野生のオカメインコやセキセイインコは決まった場所に決まった時期にいるという野鳥ではありません。まったく居場所が決まっていない不規則な放浪型の生物で、日本にはそういった生物が見当たらない為ほとんど理解されていません。これから書く内容はオカメやセキセイなどの放浪型の生き物を見たいというお問い合わせを頂いた際に、近年決まってご返信さし上げている内容です。

オカメインコやセキセイインコなど砂漠の鳥はほとんどそうですが、気まぐれに砂漠に降る雨によって環境が改善した場所を求めて不規則に大陸内部を放浪しています。発芽せずに何年も待機していた砂漠の植物はまとまった雨が降ってしばらくすると一斉に芽吹き、周囲数百キロ四方から昆虫や小鳥やほ乳類や猛禽類が集結して大騒ぎが始まります。そう、生き物達は繁殖活動すら行なわず何年もひたすらまとまって雨の降るのを待っていたのです。

ではどこにいつどれくらい雨が降るか?というと全くわかりません。降らなければろくに10年間雨が降りませんし、降り始めたら2年間めちゃくちゃに降り続いたりするのがオーストラリアの内陸部です。ですから野生セキセイインコやオカメインコが確実に存在するとわかってる土地はオーストラリアに存在しませんということをお伝えしたいのです。雨が終われば急速に鳥達は姿を消し、またもとの死の砂漠のような光景に戻ります。この現象を「ブーム&バースト」といいます。再び雨が降る何年も何十年も先まで沈黙の砂漠のままです。「ブーム&バースト」は過酷すぎる自然が覆うオーストラリア内陸部において、環境が改善したワンチャンスで繁殖するためのオーストラリア伝統の繁殖方法です。

AAK Nature Watchのホームページにはそんなインコの大群写真や記事がたくさん出ていますが、それらは探しに行って見つけるものもありますが、大発生情報をキャッチして駆けつけたというスタイルの方が多いと思います。これら蜃気楼のような生き物に出会うには、先にご旅行時期やエリアをお決めになるのではなく、インコ大発生情報を受けてそれに合わせて急いでご旅行を企画する、という通常と逆の順番が本来は適しています。まとまって現れた場合はメールマガジンツイッターで速報を出しますので、それを元にご旅行をご計画される方が多くいらっしゃいます。



情報の新鮮さは生命線です。ある砂漠の町を3万羽という数で埋め尽くしていたセキセイはわずか半月余で放浪を再開し町から消滅した例があります。2016年にはおよそ8万羽という空前の数のセキセイインコにイギリスの写真家が遭遇しましたが、わずか5日間で消え去ったとされています。アウトバックでオカメインコの撮影していた後輩は、久々に夜間強い雨が降った翌朝には群れがもう消滅したことを報告しています。「世界最高のドキュメンタリー番組制作チーム」とされるイギリスBBC放送が綿密なリサーチのもとダーウィン南部の砂漠地帯でセキセイ撮影に来ましたが、同様に一発の雨で状況が急変したため困ったBBCは急遽ケアンズ周辺にロケ地を変更することにし、私もお手伝いさせて頂きました。BBCのように調べ尽くしたところでも居場所を突き止めるのは困難なのです。放浪性の生き物には『何月ごろにこの辺に来る』というものはそもそもない上に、雨が一回降るだけでも変わってしまいます。

それでもAAK Nature Watchの過去のセキセイインコやオカメインコ遠征はいまのところ出会えなかったことはまだありません。オーストラリアに長く暮らし、全国の僻地や鳥仲間とネットワークを気づいていない限り個人的にこの砂漠の「ブーム&バースト」現象をキャッチするのはほとんど不可能でしょうし、そもそも未開の砂漠地帯への旅は不慣れなら危険が伴います。本来屈強なオーストラリア人が雪に不慣れなためよく日本のスキー場で遭難するように、日本の皆様にオーストラリアの砂漠地帯で遭難してほしくありません。オーストラリアの内陸部でオーストラリアは沿岸部以外は基本的に砂漠のような環境で国土の70-80%程度がそうです。携帯電話がカバーしているのは国土の8%のみといわれるのがオーストラリアです。その広大な無人に近い土地の、どこか環境がマシになっているピンポイントに今日もオカメインコをはじめとして人知れず鳥達が集中しているわけです。厄介ですが、でもとても夢のある話だと思いませんか。いつでも同じところに住んでいる生物よりも、毎年同じ時期にやってくる生き物よりも、それはなんと魅力的なことでしょう。

タイミングによっては普通にいるものですが、そのタイミングがいつどこにやって来るか何の規則もない、分布図も描けないのが放浪型の生き物です。イナゴのようなイメージが近いかもしれません。それだけに運良く彼らに出会えたときは堪らなく嬉しいですし、砂漠のような過酷な世界でダチョウやワシのような大型で勇壮な野鳥ならまだしも、小型インコやフィンチのような可愛い生き物が懸命に生きている事に強く感動するはずです。

前述のような8万羽の大群などに砂漠のどこかで出会えたら私はもうそこで死んでも良いとさえ思っています。オーストラリア国内で700種を超える野鳥をこれまでに見て来ましたが、セキセイインコの大群を追う以上に難しく面白い探鳥には出会っていません。



(オーストラリアに野生のセキセイインコやオカメインコを見に行くのなら、最も手軽なのはケアンズ発の一泊二日ジョージタウンツアーへの参加です。より本格的にはケアンズ発二泊三日マウントアイザツアーとなります)

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