12月下旬のこと。友人がメルボルン西部の大湿地帯で珍鳥コシジロウズラシギを発見し、二日間で300人が押し寄せるような大騒ぎになった。近年私はスケジュールがずっと埋まっているのでそうした珍鳥を追うことはすっかりできなくなっていたのだけど、激しく換羽中と見られるそのコシジロウズラシギはあまり動くこともなく特定の一角に長逗留を続けたまま年を越した。そしてその頃にようやく私の5月ごろから続いていた7ヶ月のツアーラッシュが終わり、この機会を逃さずにメルボルンまであわよくば日帰りでTwithchに行こうと計画した。この天気予報のスクショはその出発前日のもので、今日38度まで上昇した気温は明日40度にあがり、そのあと15度まで暴落するというメルボルンらしいメチャクチャな天候だった。
あれ?気温40℃とかの時ってあの大湿地帯って閉鎖されるんじゃなかったっけ?と思ってサイトを見てみるとビンゴ。火災警報が発令されている時は立ち入り禁止である。あーあ、なんということだ。計画を一日遅らせることにし、飛行機もレンタカーも前日キャンセル料を取られ散々だった。メルボルンは「世界で一番暮らしやすい街」ランキングで近年2年連続で一位になったことがあるはずだけど、頻繁に気温40℃になったり翌日は15℃に下がったりする街の何が暮らしやすいのか理解できない。とりあえずコシジロウズラシギTwitch計画は1日延期してその日を迎えたのだけど
←次の災いは名物ジェットスター航空の遅延。彼らがスケジュール通りに運行する確率は50%もないと思う。私は極力ジェットスターを使わないようにして生きているけど、変に大手なだけに彼らしか飛んでいない時間帯というのも少なくなく使わざるを得ないケースもあり歯がゆい。
朝6時にマランダの自宅を出発、7時半にケアンズ空港、9時に離陸、13時半にメルボルン到着、レンタカーを受け取りメルボルン西部の大湿地帯に駆けつけた時点で時計は14:30。日帰りでケアンズに戻るには2時間以内にコシジロウズラシギを見つけ、帰りの航空券を買ってメルボルン空港に引き返す必要がある。
というような日帰りで終わらない可能性が高い旅行の割に、私の持ち物はこの機内持ち込みサイズのペラペラの手提げだけ。この中にはR3カメラと600mm F4レンズ、ノートパソコン、電動歯ブラシだけが入っていて充電器や着替えさえ入っていない。搭乗時の検査では機内持ち込み制限の7kgを50gだけ上回る7050gだった。
10倍双眼鏡は身につけている。雨具はすでに着ており、帽子もサングラスもモバイルバッテリーも身につけているのでそれらは計量の対象外。これ以上削れるとすればノートパソコンだけど、こうした移動中は私が最も仕事がはかどる時間帯なので、ずっとメールを返したりしている。

さあできれば1−2時間でコシジロウズラシギを見つけて日帰りするぞ!と意気込んで現地入り。さすが国内有数の探鳥地、シギチはどっさりいる。ウズラシギやアメリカウズラシギなど。

先に来ていた車が3台。彼らに尋ねれば1発だ!と喜び勇んで話しかけるとみんな「この鳥たちは全部同じ種類か?」とか聞いてくるような初心者達だった(サルハマ、トウネン、ウズラウズラ)これはダメだ、自分で見つけなければいけなくなった。確かにコシジロウズラシギは初認から2週間は経過しており、Twitcherや上級者はもうとっくに済ましている頃だった。これはマズイな。

サルハマ、ウズラ、ウズラ。無数のシギをかき分けるように必死で探し続ける。重量制限で望遠鏡を持ってこられなかったのは痛いな。

トウネンの群れと、その中で光り輝く夏羽のサルハマシギ。この時点でケアンズへ戻る今日の最終便に間に合わないことはほぼ確定し、この10万円近い移動費用と見つからないコシジロウズラシギに呆然となる。気がつけば朝7時ごろから10時間以上何も食べていないし飲んでいない。集中力を取り戻す意味でも近くの行きつけのハンバーガー店に駆け込んでエネルギー補給し、再び現場に入り直した。この時点で夜の19時くらい。メルボルンの夏は陽が長いので日没は実に20:47。まだ時間はある。その時だった。「いたぞ!!対岸だ!」との声。なお夕食も忘れてこんな時間までウロウロしているアホは3人だけだ。

ロクヨンの写真を大きくトリミングしてようやくこのサイズ。「右のはトウネンだが左のがコシジロウズラシギだ!」という。これは難しい、影武者レベルだ。こんなの双眼鏡で探してても初見ではわからんわ。

右がコシジロウズラシギ、左がトウネンに交代。いやーこの距離では双眼鏡で探しても見つからないわ。ほとんどトウネンじゃん。

コシジロウズラシギって名前からしてウズラシギベースで探していたけど思いっきりトウネンじゃん。
しかし10万円の日帰り弾丸旅行が報われた瞬間だった。(続く)