実家のある東京吉祥寺に移動したけど、満開の桜で日曜日という条件で観光地でもあるこの一帯は途方もない数の人間で溢れており私は一眼レフを持って外に出ることをやめスーツケースの奥へしまい込んだ。
東京に来てからも、体が疲れていないので毎朝5時に目が覚めてしまうのは同じで井の頭公園には毎日のように散歩に行ったが(カメラを持たずに)、これまでなかった野鳥観察のマナーを訴えるノボリが100mおきに設置されていて驚いた。これ絶対なんかあったんだろう?
帰国中にバードウォッチングを毎朝何時間もすることになるとは全く思っていなかったので双眼鏡さえ持ってきていないのは失敗だったが、肉眼でウグイス、シロハラ、アオジなどを観察できたのは救いだった。
『カメラマンの密集が続く場合、立ち入り禁止措置をとります』って、一体どれだけの野鳥カメラマンが集まったんだ?オーストラリアのバードウォッチングの良いところはそういうところで、フィールドの無限の広さに対してユーザーが少ないので自由である。その代わり誰も見つけてくれないし教えてくれないので、全て自分一人で展開していかないとけないが。
ところで望遠鏡の王様として、日本のコーワが作るプロミナーシリーズがある。依然として日本製(名古屋)のプロミナーは性能は圧倒的で、特に88mmや99mm大口径のモデルは覗き込んだ人の9割くらいが「うわっ!」と声を出す。双眼鏡などはツアイスやスワロフスキーを使っていても望遠鏡はコーワ、というのが一般的な認識だと思う。写真の上がこの10年間大活躍してきたプロミナーで、下のは一昨年にリリースされた新型。
今回プロミナーのオーバーホールを依頼したのがきっかけで話が進み、私がコーワプロミナーの販売促進にオーストラリアで従事していく代わりにかなりの割引価格でこの新型プロミナーを譲っていただいた。
結構大勢の方にお会いすることになりびっくり。会社訪問や打ち合わせなんて20年ぶり以上だな。これからもコーワプロミナーの販売促進にオーストラリアで従事していくので、また決まり次第お知らせします。ただ英語マーケットのことなのでソーシャルメディアや観察会が中心になると思うけど、コロナ後爆発的に欧米人相手に仕事を取ってきてそのおかげでこういう話になって感慨深い。
この商談が今回のハイライトだったかもしれない。
毎日降る寒い雨にはうんざりしたし、じゃあ歩くのも大変だからと言ってバスに乗ろうにも人手不足ということで減便されたらしく、1時間に1-2本しかない。東京だよ?吉祥寺でこれなら地方都市なら1日3便とかじゃない?
これだけ人間がうじゃうじゃいて人手不足になるかなあ。まあバスの運転手はあまり人気がある職種ではないかもしれない。AAK Nature Watchも時給3350円で募集してるけど1ヶ月やって一件の応募もない。
パトカーが軽自動車なのはやばいというかそれだけ日本の治安がいいんだろうね。しかも警察官1人乗ってるだけ。
オーストラリアなら常時警察官二人乗車の4500ccランドクルーザーあるいはスポーツカーだけど、それでなければ制圧できないような暴れん坊も少なさそうだし、時速170kmで逃走する車とかもなさそうだしね。
この朝、普段よりも更に早く朝4時に目が覚めてしまった私は大きな決断をした。休暇はまだ数日残っていたけど、今日の飛行機を取ってケアンズへ帰ることを。もう我慢も限界だ。
滅多にない休みを使って遠いところまで来て、お金を使って、なぜ私は寒い中朝の4時5時から毎日何時間も散歩していないといけないのか。私はとても無駄なことをしている。とっととオーストラリアに帰って仕事に戻ろう。
そんな決断をしたこの朝は1週間ぶりくらいに晴れた日だった。長く続いた雨が黄砂などの空気の耐え難い汚れを洗い流し、日本に来て空は初めて澄んで見えた。それは別れの朝で、とても切ない情景に感じた。
成田空港は2時間で行けるので最後に井の頭公園まで散歩に行った。そこも今回初めて見る晴天の中で夜明けを迎え黄金に輝いていた。
LCCだから航空券も買い直し。日本へ一時帰国中に急な仕事とか身内の不幸とかじゃなくて単に嫌になって切り上げた海外在住者って有史以来いるんだろうか?多分いないと思う。
みんな狂うくらい一時帰国を楽しみにしているし、それを生き甲斐にしている人がほとんどだ。が私はそういう一般人とは積んでいるコンピューターが異なる。その行動力は爆発的で日本人離れしている。親にも「切り上げて帰ります。もう成田です」という事後報告メールのみだ。
もう多分見ることはないだろうな、という桜と朝霧の井の頭公園の風景が切なかった。私は極端な働き者なので、疲れてもないのに連日10時間も爆睡している人には辟易する。
1週間ぶりのよく晴れた日、私は静かに日本を離れた。
(完)